ネビル・シュート『渚にて』を読んだ。
もともと小説はあまり読むほうではなかった(というかほぼ全く読まなかった)のですが、ここ数年になって興味が湧いてきたので色々と手を出すようになりました。とは言ってもポストアポカリプスものが好きなのでそっち方面ばかりですが。
北半球で核兵器を使用した第三次世界大戦が勃発しほとんどの国が壊滅。オーストラリアをはじめとする南半球の国々はかろうじて戦火を逃れたものの、死の灰がじわじわと襲い掛かり、人類の滅亡は目前に迫る。死に直面した人々はいかにして残りの人生を過ごすのか…といった内容です。
いわゆる終末ものなのですが、希望を感じ取れるようなシーンは一切ありません。そして登場人物も生き永らうために抗うようなことはしません。最後の方になると彼らはバタバタと死んでいきます。バトルシーンなども無いので、アツい展開が好きな人にはおすすめできないかもしれません。
ものすごくゆっくりとしたテンポで物語が進行し、登場人物の心境などが非常に繊細に描かれているのが見どころかと思います。つまり死に直面した人間の生き方という哲学的な面がメインテーマとなっている小説です。
人間はいつか必ず死にますが、多くの人はそれに直接目を向けようとしません。しかし死を間近に意識しはじめると、どのようにして生き、そして死ぬべきなのかを考えるようになり、そのような経験を通して初めて生きることの喜びを実感するのかもしれません。読んでいてなんとなくハイデッガーを連想しました。
余談ですが、作者は「あの」パンジャンドラムの設計者だそうです。あんな豪快な兵器を開発する人がこんな繊細な小説を書けるのか…と読みながら驚いていました。